先日、成功を収めたK 'FESTA。公式観客動員数15,000人(実数はわかりませんが)を達成し、AbemaTVやツイッターのトレンドでもランク入りしてたので、いよいよK-1はある程度一定のファン層を確立してきたとみて間違い無いでしょう。
しかし一方、その運営のやり方は村社会、鎖国主義と批判もされてきました。特に那須川天心については徹底した無視を決め込んでおり、またYOUTUBEのコメント欄などでもNGワード設定をしているなど、その姿勢には批判しかありません。さらに炎上するきっかけとなったのはHIROYA、トライハードジム勢による記者会見。K-1の選手に対する契約内容が話題になりました。
一体K-1は何を目指しているのか?個人的に、マーケティングの仕事もかじっているのでK-1のやり方は興味深く見つつ、旧K-1時代からのいち格闘ファンとしては"新生"K-1のやり方については基本的には否定的です。
ということで今回は、K-1のブランド戦略について考えて行きたいと思います。
K-1は垂直統合システムの思想に乗っ取っている
マーケティングや経営に関する考え方で「垂直統合システム」というものがあります。
自社の世界観やグループ企業の中だけでビジネスを完結させることです。一方、その反対にあらゆるプレイヤーを巻き込みながらビジネスを推進していくことを「水平分業システム」と言います。
例えるなら、USJが水平分業システムだとしたらディズニーランドは垂直統合。
Androidが水平分業だとするとiphoneは垂直統合。
どっちがいいとか悪いという話ではありません。ただまあ、上記の例のように、水平分業は幅広くシェアをとっていき、垂直統合は熱心なファンや信者を生み出していく傾向があります(結果的に)。
で、K-1。K-1はもう、完全に垂直統合ですね。「100年続くK-1」を合言葉に旗揚げされ、K-1というスポーツの確立を目指すべく、K-1アマチュアの開拓も進んでいます。そしてK-1アマチュアからKRUSH、KHAOSといういわばファーム的な市場があり、上位概念としてK-1が位置している、という構図ですね。自分たちで育ててK-1という世界観の中で完結させていくわけです。
これは、競技としての確立を目指しているK-1としては大正解な仕組みです。一つのスポーツとして確立しようとしているわけです。
しかし同時に、HIROYA会見で明らかになった、排他的な構造も含んでいます。K-1が目指しているのは「K-1」というスポーツジャンルの確立。非常に鎖国的な思想を持っています。なので基本的に、出場する選手は「K-1選手」という帰属意識を持たなくてはならない。ある種、日本伝統の終身雇用的な発想ですね(もちろん実力主義なので終身雇用なはずがないのですが、たとえとして)。人材の流動が激しい欧米の雇用観念とは真逆の考え方です。
K-1の情報規制手法
K-1の垂直統合っぷりはその構造だけではありません。ファンに対する見せ方も垂直統合です。
K-1KRUSHモバイルというサービスがあります。モバイル情報サービスですね。
月額制で、加入者限定のコンテンツが盛り沢山。これだけならまあよくある話ですが、K-1が徹底しているのは、選手の試合後インタビューなどがここでしか読めないこと。一部の格闘技メディアでは試合後記者会見を記事として配信していますが、だいぶ編集が入っていますし、全文は載っていません。誰でもみれる公式サイトにもインタビュー全文は載っていません。
僕は格闘技の試合を見終えると、試合後インタビューが楽しみなんです。あとプロデューサーの総括ね。勝った選手も負けた選手も、どんな発言をするのか。そうしたインタビューは、他の格闘技興行は格闘技メディアサイトか、団体公式Webに載っていることが多かった。しかしK-1はそうではない。月額課金をしてくれている、ロイヤリティの高いユーザにしかその情報は見せない。
これは、個人的にちょっと不満ではありますが、それでもこれができてしまうのはすごいことだと思っています。インターネット社会において、情報でお金が取れるサービスはそうそう多くありません。「基本無料」の世界観ですからね、モバイルインターネットは。
K-1とジャニーズの類似点
そしてこれだけK-1が広まっているのに、一般的なWeb媒体にK-1選手が登場しているの、少ないと思いませんか?多分、インタビューを受ける媒体を相当選定していると思われます。格闘技ファンが読むような硬派な媒体は控えめにして、一般的なティーンが閲覧するような媒体やTV番組には露出していく、という感じ。
K-1は、選手のブランドマネジメントを徹底しているのです。だからK-1を通さず講演して収益を得ていた小比類巻などが追放させられる。小比類巻の処分は、格闘技ファンの間では「???」でした。しかしK-1のブランド戦略の観点から考えると、許しがたい行為だったのでしょう。K-1マネジメントの根本を揺るがしかねない事件だったわけですね。
こうした所属選手のマネジメント方法を見ていると、僕はジャニーズと似ているな、と考えてしまいます。自分たちのマネジメントしているタレントを徹底管理し、Webへもタレントの写真は使わせない(最近、緩和されてきたそうですが)。Webの世界は勝手に拡散されていきますから、自分たちのタレントが二次利用されていって世界観が崩されるのを嫌ってのことでしょう。
これと直接は関連ありませんが、武尊ファンの女の子や主婦達って、まるでアイドルを見ているかのように心酔してますからね。K-1の選手マネジメントは、今の所うまくいっているのかもしれません。
旧K-1と新生K-1の大きな違い
新生K-1は、K-1という名前を冠してはいますが、石井館長が創設した旧K-1と根本から異なっています。旧K-1の当初の思想はまさに水平分業でした。キックボクシングや空手、カンフーなど、あらゆる立ち技格闘技の中で誰が一番強いのかを決める、それがK-1でしたからね。
その思想があったからこそ、外国人ファイターも人気があったし、ボブサップや曙みたいなモンスター達も参戦してきました。立ち技における「異種格闘技戦」こそがK-1の魅力だったわけです。
新生K-1は、旧K-1の中でもK-1MAXの世界観を引き継いだブランドだと言えます。魔裟斗などのイケメンファイターを中心に据え、ヘビー級のドッカンバトルじゃなくてスタイリッシュな世界観を目指していた、K-1MAX。
ただ、K-1MAXもプロデューサーが異種格闘技大好きな谷川貞治だった為、MMAファイターである川尻達也やJZカルバン、もしくは山本KIDや須藤元気、プロボクサーのバタービーンなどの異種格闘技戦も行なっていきました。そうした他ジャンルと交わることで、話題を作っていったのです。実際、魔裟斗と川尻の試合は、MMAファンも大注目していた記憶があります。普段K-1を見ない格闘技ファンも取り込んで行ったわけです。
しかし上述した通り、新生K-1はそうではない。異種格闘技はおろか、キックボクシングの他団体との交流戦すら行いません。どうやら、KNOCKOUTの興行にK-1ファイターがいくことも禁止されている、もしくは行ったとしてもSNSなどで発信しない、ということが徹底されている模様。逆にKNOCKOUT選手はK-1の大会に行って感想呟いたりしてますが、ここまで徹底してんのかと思わざるを得ません。
でもK-1とKNOCKOUTの対抗戦、面白そうだと思いません?それが実現したら、格闘技ファンは盛り上がると思いません?
でも、それはしないのです。なぜならK-1が欲しいのは格闘技ファンではなく、K-1ファンだから。
K-が欲しいのは格闘技ファンではなく、K-1ファン
例えばRIZINの堀口恭司と武尊をK-1の試合で行えば、結構話題になるでしょう。でもそれはしない。もし新生K-1も谷川さんがプロデューサーだったら真っ先に組んでたでしょう。何故ならMMAファンをK-1に取り込むことができるから。
しかし実際、K-1はそれはしない。極論かもしれませんが、K-1は格闘ファンなんてどうでもいいのです。というか、ひょっとしたら「格闘技」というジャンルに入れられること自体、積極的ではないのかもしれません。
思い返してみると、K-1から発信される情報で他ジャンルの格闘家ってフィーチャーされないですよね。招待客も芸能人ばかり。唯一、Abemaつながりか亀田興毅がたまに出るくらいです。
K-1においては常に主語はK-1。格闘技というジャンルの中でのK-1ではなく、K-1はあくまでK-1なのだ、と。
いやいや、こうして考えるとK-1って本当に排他的というか、正直気持ち悪いなとすら僕は思ってしまいます。運営がね。
ただ実際、さいたまスーパーアリーナが満員になっているわけですし、今最も勢いのある格闘技興行と行っても過言ではないでしょう。その影響か、KRUSHのチケットもソールドアウトになること多いようですし。
是非はどうであれ、K-1グループは垂直統合でファンのロイヤリティを高め、そしてその裾野を広げています。今の所、大正解で大勝利といっていいでしょう。
ビジネスやマーケティングはこれが正解というものはありません。そして今成功しているからと行って常にこの先成長し続けるというものでもありません。例えば同じ方法をRIZINがやってもうまくいかないでしょうしね。
僕は、K-1ファンではなく格闘技ファンです。K-1も見ますけど、鎖国的なK-1には正直批判的なスタンスです。K-1が鎖国を解いたら見たいカード、結構ありますからね、実際。
というわけで、これからもああだこうだ、格闘技について語っていきたいと思います!!
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